野田佳彦が年頭会見でウィンストン・チャーチルの言葉を引用したと報じられた。

「どじょう」と「正心誠意」に次ぐ引用である。

だから、雪斎は、「チャーチルのどの言葉を引っ張ってきたのか…」と反応したのである。

事情は、次のようなものであったらしい。



ネバー、ネバー、ネバー、ネバー・ギブアップ

野田首相は4日午前の年頭記者会見で、第2次世界大戦でドイツとの攻防に勝利した英国のチャーチル首相の言葉を引き合いに、消費税率引き上げの実現にかける決意を強調した。

首相は、チャーチル首相が1941年に語った言葉にならい、「『ネバー、ネバー、ネバー、ネバー・ギブアップ』(決してあきらめない)。大義のあることをあきらめないでしっかりと伝えていけば、局面は変わると確信している」と強調した。

首相は消費税増税をめぐり、党内に反対派を抱え、野党の協力を得られるメドは立っていない。劣勢をはね返して勝利をつかんだチャーチル首相に重ね合わせて自らを鼓舞したようだ。
(2012年1月4日12時29分 読売新聞)



この記事を読んだ際、雪斎は、このチャーチルの引用が却って野田の「底の浅さ」を暴露することになるであろうと直感した。誠に引用が平板だったからである。

野田が引用したと思ったのは、1941年10月、チャーチルが母校であるハロー校で行った演説である。これは、英語圏では、「決して降伏しない(“Never Give In” Speech)」演説として有名なものである。この「降伏しない」演説には、次のような一節がある。



Never give in. Never give in. Never, never, never, never—in nothing, great or small, large or petty—never give in, except to convictions of honor and good sense. Never yield to force. Never yield to the apparently overwhelming might of the enemy.



案の定、チャーチルは、野田が引用したように「決して諦めない」と語ったのではく、「決して降伏しない」と語ったのである。故に、野田の引用も、それ自体としては正確ではない。1941年10月というのは、米国の参戦の手前の時期、「バトル・オブ・ブリテン」のもっとも困難な時節である。チャーチルが「決して降伏しない」と語ったたことからは、時代の切迫感が伝わってくる。

しかも、チャーチルは、対独戦継続のために、蛇蝎のごとく嫌った社会主義者(労働党)を閣内に入れていたし、「もっとも堕落した」ソヴィエト共産主義体制とも手を結んでいた。野田の言葉は、こうした政策オプションを考慮に入れているのか。

野田の「言葉の番人」は、いないのか。

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